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 ロー星巫女凍結のニュースは、シス管から許された範囲で一般居住者にも公開された。皆そのニュースに騒然となり、整備された廊下や道を行き交う人々も、他の各室に配属となって各々の仕事に励む人々も、口々にその事を囁き合った。無論年頃の若者が集う教育施設はその話題で持ちきりだった。

 教育施設のある区画は、他の区画――居住区画、各室区画、共有区画など――に比べてガラスの自動ドアが多く、昼夜の区別もない中で、閉鎖的な空間にならないよう証明の配置等も工夫されていた。いくつもの教室と食堂などの休憩スペースが並ぶ施設内を、学徒達は三度目の巫女凍結の報せについて、または各々の興味のある事について、口々に喋りながら行き来していた。

 その開放的な廊下を、誰とも喋らず一人で急ぎ足を進ませる女学徒がいた。名はマーシャル・ミレイ、最高学年の18歳である。金髪を二つに結い分け、互いにやや離れているくっきりした大きな目で、濃い緑色をしている。強気な形に笑む事の多い、弾むような唇は今が盛りのみずみずしさに溢れているが、この時は険しく引き結ばれていた。身長は160あるかないかだが、細すぎもせず太すぎもしない健康的な手足は、その姿勢の良さから数字よりも長く見える。成績は良い方だがずば抜けているというほどでもなく、就職はこの教育施設の教員と決まっていた。彼女は足をさらに速め、ある教室の自動ドアが開くと、ずかずかと中へ入り込んだ。

 今は休み時間で、教室の人はまばらだ。その中に目的の人物を見つけ、彼女の座席への段差を上がって行く。辿り着いてもまだ気付かない相手に、ミレイはぽんと、と言うよりバシッとその肩を叩いた。

「う、わっ、ミレイ、ごめん、来てたの〜?!」
「ちょっとちょっと、ボーっとし過ぎでしょ?食事もしないで何やってんの?」
 ミレイは謝る相手に溜息をついて応対した。
「あ、うん、そうだね、まだだった〜。食堂まだ混んでるかな、行ってもいい〜?」
「ハイハイ…5秒以内に支度しなさいよ」

 ミレイに言われ、相手の少女は慌てて財布―代わりの電子機器を荷物の中から探し出した。ミレイの早口とは対照的にのんびりした調子のこの少女こそ、イオタ星で当代一人の『適性者』、ライアス・サーヤだった。兄、テラの言葉にもあった通り18歳だが、見かけはそれよりどちらかというと幼く見える。ミレイのようなみずみずしい印象よりは、色白で細いイメージの方が強く、背丈もさしてある方ではなかった。そして珍しい事に髪は銀髪で、目は薄い薄い青だった。色も白いので全体的にメラニンが少ないのだろう。その銀髪は腰まで届くほど長く、豊かだが、本人はすぐ絡まると文句を言う事が多かった。今日はその半分ほどを高い位置で結っているが、気分で髪形は色々と変わった。何にせよその銀髪と白い肌、薄い碧眼、そしてよく宙を見つめている事の多い態度は、何も知らない者には『適性者』の名に違わぬ、神秘的な印象を与えるものだった。(ただ、彼女の性格をひと度知ればそんなイメージは吹き飛ぶというのも知る人の間では有名な話だった。)

 こういったニュースが流れると、多くの人はサーヤを腫れ物扱いするが、教育施設3学年目以来の友人であるミレイは、そんな遠慮や余計な気遣いはしない。だが心配はしている。そのためこうして様子を見に来ているのだ。

「ロー星の話聞いた?」
「うん…」
 食堂に向かう道すがら、発された問いに、サーヤは沈んで答えた。
「巫女ってのも絶対じゃなくなってきたのね。何なのかね、そのリュクルゴスって。大体ネーミングがダサくない?何よリュクルゴスって。意味不明よね」
 ミレイは最初溜息に乗せるように話していたが、だんだん息巻いてきて、最後には全く普段の調子になっていた。サーヤは苦笑した。
「7人なのに捕まりもしないで3つ目のテロが成功って事は、すごい能力があるんだよ、その人達も」
 サーヤは不安げに呟くような声で言い、少しの間を置いて、
「………まぁ、確かに、名前は、ちょっと…ね」
とつけ加えた。ミレイは笑うと、
「でもテロが増えれば増えるほど警戒も強くなるから安全は逆に増えるって所もあるわよね〜。大体この星にはシス管にあんな過保護なお兄さんがいるでしょ。あの人がそんな変な名前の奴らに妹どうこうさせるとは思えないけどな〜」
と言った。サーヤはそれに半分ほど同意して微笑んだ。

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